『味の摂理』

 グラスに上品に注がれた最上級の葡萄酒の味は、よく判らない。
 思い出すのは故郷の粗雑な麦酒と、村人達の笑顔。
 彼らは今、幸せだろうか。
 いや、彼は、幸せな麦酒を呑めているだろうか。
 せめて、そうであると知る事が出来れば、私はこの葡萄酒をゆっくりと干すことが出来るだろう。たとえ彼の麦酒を注ぐ女性が居たとしても。

 彼女が領主館に囲われて以来、麦酒の粗雑な苦みすら判らなくなった。
 ただ酔うために呑む。
 それも、いつまで続くか。最低の麦酒すら徴税の元、枯渇しつつある。
 彼女は、上等の葡萄酒を嗜んでいるだろう。
 きっとこれで良かったのだ、と、また麦酒をあおる。
 明ければ、また貧しい畑の世話をする。

  それは最小の、味覚の摂理。

 

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テーマ:酒/2017.10.07.

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