『あの橋の向こうは…』

 きっと、楽園だ。
 泥の水を啜るような世界じゃ無い、様々な果実酒の池がある。
 湿った小枝で必死に微かな火をくすぶらせる必要なんか無い、尽きることの無い灯火台がある。
 土も、もっと肥えているだろう。もしかしたら、パンや果物がなっている木があるかもしれない。

 ボロボロの橋の手前で、僕はうずくまる。
 そこまで長い距離ではない。
 けれど、僕にはその橋を渡る勇気が無かった。
 僕はうずくまる。
 楽園を夢見つつ、砂利混じりの土を食む。
 距離はさして無いけれど、ボロボロさ加減に落ちるのが怖いから。

 渉ってしまえば、楽園なのに。

 泥水を啜る。
 もう、立つ気力すら無い。

 やがて、村の端の崖縁で、少年が息絶えているのが見つかった。

 

Twitter300字ss
テーマ:橋/2020.07.04.

コメント