『ある女領主』

 彼に問えば必ず「おう」と来る。こたえた通りの結果をもたらす。
 それは、戦士の理論。
 違う。
 彼女が欲しいのは、個としての彼の返しこたえなのだ。
 あるじであっても女で有る限り、いや、女であるからこそ、それを彼に直接に問うことは許されない。間接的な問いに、彼は気付かないのか、曖昧に濁しているのか。あるいは、主従故にいなとは言えぬのか。
 主従であるが故に出会い、近く、そして、酷く遠い。
 けれども、彼女が個に徹すれば、多くの者が被害を被る。
 だから、彼女はひどく婉曲に問うことしかできない。

 そういう時期が、両親にあった、と聞いて、現当主は驚愕し、それから、納得した。
 父が母に答えた。だから彼ら兄弟は、立場のわりにひどく和やかなのだ。

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テーマ:答え/2021.07.03.

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