『そして、王妃の目には喜びの涙が』

 王様は、王妃様に、お二人の婚姻の日には必ず、高価な宝飾品を贈られます。
 青い宝石の首飾り、赤い宝石の耳飾り、琥珀に妖精を閉じ込めたというブローチ。
 妾姫しょうきたちにはない、王妃様が大切されているあかしと、ささやく廷臣たちも多いとか。
 けれども。
 王妃様の真の宝物は、王子様と王女様、王妃様と王様が、むつまじくえがかれた肖像画。
 それに、今はついえた王妃様の母国の風景画、過去の経過をつづった手紙の束。

 どうか、陛下。妃殿下にお仕えする者より、お願い申し上げます。
 今年ばかりは、宝石より、凶作を予想されている王妃様の母国だった地への、食料の下賜かしたまわりますよう。
 ご自身は、亡国の王女というかせゆえに、直言じきげんをはばかられているのです。

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テーマ:宝物/2021.10.02.

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