『ひたすらに』

 男は黙々と、地面を整える。

 かつて彼は、軍馬でこの辺りを踏んだ。
 蹄鉄が草を荒らし、その上で剣が、甲冑と槍が、ぶつかり合った。相手を、この草むらにたたき落とし、あるいは仲間が落とされた。
 あの日の音や悲鳴、血臭はもう、残ってはいない。
 けれども、この辺りにあった田畑も村も、もう、残ってはいない。

 この草原をまっすぐに行くことが出来れば、新大陸へ乗り出す港へ容易になる。けれどもここは昔から、整地が難しく、駅馬車を走らせるには、石をのけたり、昔転がった様々なものをのけるのが、非情に面倒で誰も手を着けずじまい。
 また一つ、錆び付いた兜が半ば埋もれている。
 まっすぐな道を開こうと、男は黙々と、それを取り除いく。

 

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テーマ:道・路/2021.04.03.

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