『想い出の鞄』

 初めて、おじいちゃんの遺した旧いスーツケースを開ける。ちょっとだけ、札束とか売れそうな骨董品とか、現金な物を期待したのは内緒。
 入っていたのは、町だった。
 真ん中は、おじいちゃんの家。
 今は建て替えられている、木造の家の屋根が並ぶ。
 遊びに行くたびに通った駄菓子屋さんもある。
 ああ、あっちは公園だ。
 おじいちゃんの家からどのみちを通って、どう遊びに行ったのか、ビックリするくらいにしっかりと思い出せる。

 あの家のおばさんは、今、どうしているんだろう。
 あそこで遊んだ名前も知らなかった子は、どんな道を歩いているだろう。

 鞄を取り上げて、立ち上がる。
 今のあの町を、見に行こう。
 今のあの町を、別の鞄に収めよう。

 

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テーマ:鞄/2020.04.04.

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