かつて、巨大になりすぎた竜は空へと飛び立った。永く、永く、空の彼方へと飛翔した果てに止まり、そのまま、虚空に漂う巨大な陸になった。伝承には、そうある。
巨大故に孤独となった竜の内に、ほんのりと〝何か〟が生じたのは、何時で、何故か。それは、過去の神々にも預かり知れない。神々は万能ではないし、森羅万象を司る幾種もの精霊たちもまた然り。
孤独な竜の内、あるいは、巨大な虚空の大陸の内側に、何時しか小さな〝何か〟が灯った。
始めは、暗闇に灯った弱い光。
それはやがて漠然とそれぞれの形をとり、幼虫、そしてサナギへと羽化するように、地中、或いは陸たる竜の胎内に、ひっそりと、複数、生じた。始祖にして本体たる竜すら、まして精霊や旧き神々も、それを知る事は無かった。
彼らはしばし、ひっそりと、それぞれにそこに存在した。
やがて、その目の前に、茫洋たる卵が現れた。
本能、と称すべきか、あるいは、それが彼らの役目だったのか。
現れた卵を、彼らは慈しみ、抱き見守る。
永い、永い年月、少しずつ、見守られた卵は成熟の方向へと向かう。
それは、孤独であった大地たる竜の意志か。
あるいは、なんらかの運命とでも称されるべきものなのか。
判る者は無かった。知る者も、説く者も、そもそも、知覚するものすらも無かった。
卵を抱く者ただ、本能のままにそれを守護した。
大地となった竜にはすでに意志などなく、旧き神々や精霊はその出現すらもしらず。
時が、過ぎる。
幾多の自称を司る精霊らはそれぞれに、虚空の陸となった竜の上に陽光を、慈雨や嵐を、夜を、風を、その他幾多のものを注いでいた。
かつて巨竜が飛び立った地にあった旧き神々の幾らかは、気紛れにその地に干渉をした。
あるいは、巨竜の上昇に知らぬ間に巻き込まれた旧き樹木グドゼヴィウスの如く、ただ泰然と根付いたものもある。
ただ、ただ、それぞれが、それぞれのあるがままに、時は過ぎる。
パリン、という、小さな音を、意識ある超常者たちが察知するまでは。
その音が小さくなったときから、少しずつ、大陸にこれまでとは違う異変が現れた。
竜鱗に似た小さな虫が、地を這い始めた。あるいは、翼とも呼べぬ羽を得て飛んだ。
それよりも大きく、獣とも竜とも酷似し、しかし別の物である幾種もの動物が、いつしか群れ、あるいは孤高の内に這いだした。
旧き神々は察した。
これによく似た光景を、遥か過去、すでに巨竜に絶えられずに消えた地で、見たことがある。
鳥、獣、虫、幻獣、人。
神々や精霊とは別種の生命。
やがて、かつて孤独に絶えかね大陸となった竜の上に、数多の、こうした生命が出現するのだろう。
精霊らは、ただ彼らを無邪気に祝福した。
この地、この環境で、何が起こるか知りうる者はない。
後に〝竜の大陸〟と名付ける者が現れた時代。そこには様々な種の者や人が生き、様々な解釈を、あるいは否定をした。
それほどまでに、大陸は生命に満ち、多くの歴史を刻む。
そこに何が介在したか、語り部なき事象は何者も知らぬまま。
- 了 -
★戯れ言★ シリーズ【竜の大陸】の1エピソード
ただし、現時点ではココにすら追いついていないので、気になったらたま~にサイトかブース見てみて下さい、としか(^^;
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