豪奢な首飾りも、彼女の表情を動かすには至らなかった。美麗なドレスも、王妃の地位と宝冠も、それに相応しい庭園や離宮も。
彼女は言う。欲しいのは、故郷の安否とあの人の消息だけだ、と。
閑散とした田舎、寂れた山村。価値などない。唯一は宝石のような彼女だった。それを、その美しさに相応しかろう世界に、ようやく囲い込んだというのに。
その頃から、彼女の美しい顔は曇った。
不可解だ。
それでも、真の美しさを取り戻せるのならば、と、彼は女が請う地を贈った。
すでに、荒れた家々しか残っていない村のある山を。
女は、贈られた新領地で、一つの骸を見つけた。
以降、彼女はそれを愛しげに抱き、他には仮面の笑みを向け続ける生涯を送った。
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テーマ:渡す/2017.07.01.
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