『追跡』

 灰の内に、微かに赤い熱がくすぶっている。
 意図しているのか、いないのか。姿は見せず、ただ痕跡こんせきを追う旅路。
 このくすぶる火種は、いよいよ近いという照査しょうさだろうか。
 女はその周囲を調べ、また、追う。
 あの男が彼女に追えるような痕跡を残す意図、もしくは事情は分からない。いや、そんなことは、今の彼女にとっては無縁だ。
 ただ、ただ、痕跡を追う。その残滓ざんしにのみ、価値がある。

 そして、嗚呼、やっと、彼に追いついた。
 男の名を呼ぶ。
 男は、かたわらにいる女と同時に振り返る。
 彼女は、渾身こんしんの力を込めて、懐に忍ばせたものを握りしめる。

 男女の血が舞う。

 ああ、そんなことは、どうでもいい。
 彼女の宝物、我が子を取り戻すことが出来たのだから。

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テーマ:残る/2021.09.04.

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