『女の肖像』

 東の教会の影にひっそりと佇む墓標に掘られた名は、前王朝末期、最後の王妃の勘気に触れて処刑されたといわれる天才画家レガン。西の教会の地下室には、その原因となった描きかけの絵が、ひっそりとかくまわれている。
目尻に僅かに描き込まれた皺が、画家の悲劇の源だと伝えられる。胸元から下は未完成のまま。

 しかし、まことしやかに囁かれる噂は、いつからか、胸元には質素な首飾りが描き込まれ、豪奢な夜会着は質素な麻の服に描き換えられ、レガンの故郷を背景にした絵として完成している、と囁く。

 誰かが、夜闇に墓標の前に佇む女を見た。

 翌日から、封印された絵の女は、隣に画家レガンを侍らせて柔らかに笑っている、と言われ始めた。

 

 

テーマ:絵/2016.11.05. Twitter300字ss @Tw300ss

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