お題小説

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『絹の衣』

「あの衣はどこへ消えた」 王妃が問うは、十四になる姫が産まれた時に贈られた衣。 あのときの王妃は、風邪をめした王女への魔女の呪いを恐れて、処分を命じた。 だから侍女は、あのときに困窮していた妹に産まれた子に、裸よりは、と、あの衣を渡した。 ...
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『悪夢』

走る、走る、走る。全力で走っても、いつまでも目的地は遠い。唐突に転んだ。絶望感と同時に、布団の上で覚醒した。夢、だった。何に急いでいたのかも思い出せない。でも。恐ろしいほどの寝坊だ。準備をして一気に駆け出す。駆ける、駆ける、駆ける。ああ、な...
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『森の歌』

先を定めぬ逃亡の歩みはいつしか森に迷い込み、一度力尽きたのは巨木の根元だった。 風の音。 草のざわめき。 それさえ、意識するのが難しくなる。 そして、夢を見た。 孤独に佇む巨木、やがてそこから注ぐ何かに誘われるように、草が、花が、木の芽が伸...
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咲くはただ、花

今年も神木の根元にひっそりと、赤い花が咲いた。 神殿の者は聖女の涙と呼ぶ。 離れた都の民は魔女の血と呼んでいるらしい。 先帝が倒れ、皇后は藁にも縋る思いで聖とも魔ともつかぬ花の煎じ薬を求めた。 そうして母后を救われた当代帝は、かの花を魔女の...
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『涙の条件』

ここで涙を流すことができたら。周囲の目は好転したのに、と気がつくのは翌日くらい。 そうしていたら、軽いイジメに少しは注目してもらえたかもしれないのに、あの瞬間は、意地でもそんなもの、見せてはいけない気分になっている。やったら負けだ、と。 別...